創傷治癒を阻害するのはどれか。
a: 高血圧
b: 糖尿病
c: ステロイドホルモン投与
d: 放射線照射
e: 正常妊娠
自然治癒のメカニズムは、以下の通りである。
(1.出血凝固期)
創からの出血により、凝固塊が創傷を塞ぐ過程。創部から出血があり止血するときに、血小板から創傷治癒を始めるサイトカインを放出する。
(2.炎症期)
好中球やマクロファージなどの炎症細胞が、創部の壊死組織や感染に立ち向かう時期である。創部を浄化しようとしており、たんぱく分解酵素が壊死組織を融解する。炎症や感染兆候のある組織・壊死組織がある創・浸出液が多い組織も炎症期の変化で浄化される。
(3.増殖期)
成長因子によって線維芽細胞が働き、肉芽組織が形成される時期である。肉芽組織が損傷した組織を埋める。また、血管内皮細胞の働きで血管新生が進み、創傷治癒が進みやすくなる。創部に肉毛組織が上がってくると、表皮細胞の働きで創部の周囲から収縮と閉鎖が起こり、瘢痕が作られる。
(4.成熟期)
増殖期に形成された瘢痕が強固になる時期である。瘢痕が作られてより強固なものとなり、組織が成熟するまで2〜3か月かかる。作られたばかりの瘢痕は脆弱なので、保護などのケアが必要。
創傷治癒遅延の要因には、全身要因として、加齢、低栄養、低アルブミン血症、糖尿病、副腎皮質ホルモンの内服などがある。また局所因子として、感染、血行障害、圧迫などがある。
全身的要因 | 局所的要因 |
低栄養・貧血・糖尿病・ステロイド・抗炎症薬 抗がん剤・免疫抑制剤・放射線・黄疸・尿毒症 加齢・喫煙 | 細菌汚染・感染・異物・壊死組織の存在 死腔・離開・血流障害・酸素供給不足 |
a:高血圧の状態でも末梢の循環が保たれていれば、創傷治癒には直接影響しない。
b:正解。糖尿病によるインスリン不足による細胞活動性の低下は、免疫細胞である好中球やリンパ球にも影響を与える。 これらの細胞活性の低下は即免疫能の低下と直結しており、 創感染が起こりやすく、また一旦起こった創感染は治りにくい。
c:正解。ステロイドには細胞増殖を抑制することにより創傷治癒を遅延させる作用がある。
d:正解。未分化な細胞ほど放射線感受性が高いことから、創傷治癒に深く関わる細胞である幹細胞が局所で放射線によって障害を受けることにより創傷治癒が遅延する。
e:正常妊娠では会陰部裂傷があっても創傷治癒は速やかである。また、羊水中には創傷治癒を促進する因子の存在が指摘されている。