糖尿病を原疾患とする患者が血液透析を受けている。ドライウェイトは60kgであり、4時間で4Lの除水を行っている。開始時140/90mmHgであった血圧が、透析3時間後に80/50mmHgとなった。このときの対応として正しいのはどれか。
1: 頭部挙上
2: 除水速度増加
3: 降圧薬の内服
4: 透析液加温
5: 生理食塩液の投与
透析中の低血圧は、収取期血圧が20mmHg以上、あるいは平均血圧が10mmHg以上低下して症状を伴う場合と定義される。
血圧の低下は発生時間によって3種類に分かれると考えられている。
①開始直後 原因:循環血漿量の減少、対応:除水速度の配分変更
②30分以内 原因:循環血漿量の減少速度が高い、対応:アルブミン点滴
③30分以降 原因:循環血漿量の絶対量が低い、対応:生理食塩水、高張液の点滴、または除水中止
透析前半に発症する場合には、循環血漿量の減少に心血管系の代償機能が作動しきれず血圧低下をきたすものである。低アルブミン血症などの高リスクの患者で起こりやすい。この場合、細胞外液を補充しても同じ速度で透析中の低血圧を繰り返す。そのため、アルブミンやデキストランの点滴や限外濾過速度を小さくするくらいしか方法はない。透析後半に起こる場合には循環血漿量の低下によって起こるものであるため、輸液でも限外濾過速度の抑制でも有効である。その他には、下肢挙上による対応がある。
1:血圧低下時に、頭部への循環血液量を確保するために下肢を挙上することがある。その場合、下肢の末梢循環不全に注意する。
2:血圧低下時は、除水速度減少を検討する。除水速度を増加させると、血圧低下を助長させる。
3:降圧薬の内服は血圧低下を助長させる。
4:透析液加温では血圧低下の対応とはならない。血圧低下症例に低体温透析療法が用いられることもあるが、循環血漿量減少によって起こる血圧低下には効果がない。
5:正解。設問からは循環血漿量が減少して血圧低下していることが読み取れるので、生理食塩液の投与は効果的である。